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坂本龍馬

【内容】
薩長同盟の締結に奔走してこれを成就、海援隊を結成しその隊長として貿易に従事、船中八策を起草して海軍の拡張を提言……。明治維新の立役者にして民主主義の先駆者、現在の坂本龍馬像を決定づけた幻の長篇小説、68年ぶりの復刻!
2010年大河ドラマ『龍馬伝』で注目!

「何(ど)うじゃ龍馬! これが断末魔の己れの胸じゃ。寅之進の精神じゃ。又貴様の云ってくれた軽格の魂じゃ」
 何という冷静、何という平穏、今という今、腹一文字に掻割(かっさば)いたばかりの寅之進、鮮血は滾々(こんこん)として座に溢れ龍馬の刀の下緒は真赤に染みて居る。(中略) 「オオ、池田! 見事であるぞ! 貴様の死は決して無にはせぬ。此(この)龍馬が貴様に代り代って何をするか、草葉の蔭からよく見届けてくれ!」 「嬉しいぞ坂本!」
「貴様は死んでも軽格の魂は決して亡(ほろ)びぬぞ。是(これ)までに家中の奴原(やつばら)からうけた侮蔑凌辱、キッと思い知らしてやる時が来る。見よ、此の嶮(けわ)しい山、荒ぶる海、本統(ほんとう)の土佐人は吾々(われわれ)軽格だ。本統の土佐人が出て仕事をする時はモウ眼前に迫って居る。貴様の死は吾々軽格の惰眠を醒(さま)す暁の鐘じゃぞ」
「坂本! 有難(ありがた)い、モウ何も思い置くことはない」
 坂本は池田の見る前で、その下緒をとって生々しい血を啜(すす)った。
 池田はかくして逝(ゆ)いた。坂本はかくして死んでゆく池田の魂に誓った。(本書より)

【著者紹介】
白柳秀湖(しらやなぎ・しゅうこ)1884〜1950。静岡県生まれ。中学生の時、島崎藤村の『若菜集』に触れて文学に目覚めると同時に、足尾鉱毒事件によって社会問題にも関心を持つようになる。早稲田大学在学中は、幸徳秋水、堺利彦ら平民社の社会主義運動に共鳴。1905年には、中里介山らとプロレタリア雑誌「火鞭」を創刊する。その頃から論集『鉄火石火』、創作集『黄昏』などを発表して気鋭の作家、評論家として注目を集める。また市井の歴史研究家としても活躍し、幕末以降の日本の歴史を政治、経済、文化の側面からとらえる『財界太平記』、『西園寺公望伝』、『坂本龍馬』などの作品を残している。 

末國善己(すえくに・よしみ)1968-。文芸評論家。編書に『国枝史郎探偵小説全集』、『国枝史郎歴史小説傑作選』、『国枝史郎伝奇短篇小説集成(全二巻)』、『国枝史郎伝奇浪漫小説集成』、『野村胡堂探偵小説全集』、『野村胡堂伝奇幻想小説集成』、『山本周五郎探偵小説全集(全六巻+別巻一)』、『探偵奇譚 呉田博士【完全版】』(以上作品社)など。