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戦下の淡き光

【内容】
1945年、うちの両親は、犯罪者かもしれない男ふたりの手に僕らをゆだねて姿を消した――
母の秘密を追い、政府機関の任務に就くナサニエル。母たちはどこで何をしていたのか。周囲を取り巻く謎の人物と不穏な空気の陰に何があったのか。人生を賭して、彼は探る。あまりにもスリリングであまりにも美しい長編小説。


 ときおり、テムズ川の北の掘割や運河で過ごしたときのことを、ほかの人に委ねてみたい気持ちになる。自分たちに何が起こっていたかを理解するために。それまで僕はずっと匿われるように暮らしていた。だが、今では両親から切り離されて、まわりの何もかもを貪るようになった。母がどこで何をしていようと、不思議に充足した気持ちだった。たとえ真相が僕たちには隠されていたとしても。
 ブロムリーのジャズクラブでアグネスと踊った晩のことを思い出す。〈ホワイト・ハート〉という店だった。混んだダンスフロアにいると、隅のほうにちらっと母が見えた気がした。振り返ったが、もう消えていた。その瞬間に僕がつかんだのは、興味をあらわにした顔がこちらを見ている、ぼんやりした映像だけだった。(本書より)


【著者・訳者略歴】 マイケル・オンダーチェ(Michael Ondaatje) 1943年、スリランカ(当時セイロン)のコロンボ生まれ。オランダ人、タミル人、シンハラ人の血を引く。54年に船でイギリスに渡り、62年にはカナダに移住。トロント大学、クイーンズ大学で学んだのち、ヨーク大学などで文学を教える。詩人として出発し、71年にカナダ総督文学賞を受賞した。『ビリー・ザ・キッド全仕事』ほか十数冊の詩集がある。76年に『バディ・ボールデンを覚えているか』で小説家デビュー。92年の『イギリス人の患者』は英国ブッカー賞を受賞(アカデミー賞9部門に輝いて話題を呼んだ映画『イングリッシュ・ペイシェント』の原作。2018年にブッカー賞の創立50周年を記念して行なわれた投票では、「ゴールデン・ブッカー賞」を受賞)。また『アニルの亡霊』はギラー賞、メディシス賞などを受賞。小説はほかに『ディビザデロ通り』、『家族を駆け抜けて』、『ライオンの皮をまとって』、『名もなき人たちのテーブル』がある。現在はトロント在住で、妻で作家のリンダ・スポルディングとともに文芸誌「Brick」を刊行。カナダでもっとも重要な現代作家のひとりである。

田栗美奈子(たぐり・みなこ)
翻訳家。訳書に、コリン・バレット『ヤングスキンズ』(共訳)、クリスティナ・ベイカー・クライン『孤児列車』、マイケル・オンダーチェ『名もなき人たちのテーブル』、ラナ・シトロン『ハニー・トラップ探偵社』、リチャード・フライシャー『マックス・フライシャー アニメーションの天才的変革者』、ジョン・バクスター『ウディ・アレン バイオグラフィー』(以上作品社)他多数。