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ヤングスキンズ

【内容】
経済が崩壊し、人心が鬱屈したアイルランドの地方都市に暮らす無軌道な若者たちを、繊細かつ暴力的な筆致で描きだす、ニューウェイブ文学の傑作。世界が注目する新星のデビュー作!
ガーディアン・ファーストブック賞、ルーニー賞、フランク・オコナー国際短編賞受賞!


「ダグラス」と彼はまた呼んだ。「なあ、聞いてくれ。おれがガキのころ――」
 すぐそこに、泥に半分埋まった石があった。アームはなめらかでずっしりと重い卵形の石をつかみ、ファニガンのこめかみを狙って、血管が脈打つあたりに打ちつけた。石は鈍い音をたてて頭にめりこんだ。ファニガンはまばたきをして、草むらにぐにゃりと崩れおちた。
 アームはすかさずファニガンの体の下に腕を差しいれ、そのまま抱えあげた。ファニガンの体は温かく、少し痙攣【ルビ:けいれん】しているようにも感じられた。アームが川に入り、どんどん深いほうへ進むうちに、ジーンズ越しに太ももの上まで冷たさが凍みてきた。胸を反らし、ファニガンを川の中ほどへ放りだした。ファニガンの体は水面に当たって水しぶきをあげ、たちまち流れに巻きこまれていった。(「安らかなれ、馬とともに」より)


【内容目次】
クランシー家の息子
おとり

身の丈を知る
安らかなれ、馬とともに
ダイヤモンド
私の存在を忘れてください
謝辞
訳者あとがき


【著訳者略歴】
コリン・バレット(Colin Barrett)
1982年カナダ生まれ。アイルランド西部のメイヨー県に育つ。2009年、ダブリンの文芸誌『スティンギング・フライ』に初めて短編が掲載。初の単著となるYoung Skins が2013年に出版されるや、たちまち注目を集め、アイルランドのみならず英国や米国においても高く評価される。2014年に本書でガーディアン・ファーストブック賞、ルーニー賞、フランク・オコナー国際短編賞などの名だたる文学賞を受賞。

田栗美奈子(たぐり・みなこ)
翻訳家。訳書に、クリスティナ・ベイカー・クライン『孤児列車』、マイケル・オンダーチェ『名もなき人たちのテーブル』、ラナ・シトロン『ハニー・トラップ探偵社』、リチャード・フライシャー『マックス・フライシャー アニメーションの天才的変革者』、ジョン・バクスター『ウディ・アレン バイオグラフィー』(以上作品社)他多数。

下林悠治(しもばやし・ゆうじ)
1979年大阪生まれ。2008年、メイヨー県に祖先をもつ翻訳理論研究者のサリー・マーシャルとの結婚を機にアイルランド北西部のスライゴ県に移住。以来フリーランスの翻訳家として活動する傍ら、県内の高等学校3校で日本語を教える。本書の舞台である架空の田舎町「グランベイ」に酷似した環境で、本書の登場人物たちのような人々に囲まれて暮らしている。