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パリ十区サン=モール通り二〇九番地
ある集合住宅の自伝

【内容】
ナチス占領下のパリに生きた市井の人々

東欧からのユダヤ系移民たちや貧しい人びとが数多く住むパリの集合住宅は、ナチス占領下の困難な時代をいかに乗り越えたのか。ヴィシー政権下の1940年代前半を中心に、1840年代に遡る建物の完成から21世紀の現在に至るまで、この集合住宅に生まれ、暮らし、消えていった名もなき無数の人びとの物語を丹念に紡ぎだす、唯一無二の歴史ドキュメンタリー。


 我々二〇九番地。貧者も、死者も生者も、行方不明者も帰還者も、我々パリ・コミューン参加者も職人も、レジスタンス活動家も密告者も、我々恋する娘もふしだらな女も、我々カビール人もポーランド人も、ユダヤ人も、ポルトガル人もブルターニュ人も、モロッコ人もイタリア人も、我々、オデット、アルベール、ダニエル、ヘンリーも、シャルルも、その他の人々も皆、我々二〇九番地なのだ。「我々二〇九番地」という言い方は、想像上の故郷を力強く誇らしく表明するものであり、中庭の上で四角く切り取られた空がその旗印となるだろう。(本書より)


【著者・訳者略歴】
リュト・ジルベルマン(Ruth Zylberman)
1971年、パリ生まれ。ドキュメンタリー映画監督、文筆家。パリ政治学院とニューヨーク大学で歴史や文学を学んだ後、助監督として経験を積み、2002年の『パリ・ファントム』で監督デビュー。これまでに10本近くのドキュメンタリー映画を監督し数多くの賞を受賞している。なかでも、2018年の『パリ十区、サン= モール通り二〇九番地の子供たち』は書物の姉妹編と見なしうる映画であり、行方不明者を含む占領下の子供たちに焦点を絞っている。また、2015年に出版された最初の小説『生死不明者調査局』は、著者の母、叔母、祖母の強制収容所体験を脚色した物語で、英語、ドイツ語、スペイン語にも翻訳され高い評価を受けた。

塩塚秀一郎(しおつか・しゅういちろう)
1970年、福岡県北九州市生まれ。専門は近現代フランス文学。東京大学教養学部(フランスの文化と社会)卒業。同大学院人文科学研究科修士課程(仏語仏文学専攻)修了。パリ第三大学博士(文学)。現在、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授。著書に『逸脱のフランス文学史 ウリポのプリズムから世界を見る』(書肆侃侃房)、『レーモン・クノー 〈与太郎〉的叡智』(白水社)、『ジョルジュ・ペレック 制約と実存』(中公選書)など、訳書にジョルジュ・ペレック『パリの片隅を実況中継する試み ありふれた物事をめぐる人類学』、『傭兵隊長』、『煙滅』、『美術愛好家の陳列室』、『さまざまな空間』(以上水声社)、レーモン・クノー『リモンの子供たち』(水声社、日仏翻訳文学賞受賞)、『あなたまかせのお話』(国書刊行会)などがある。