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スター女優の文化社会学
戦後日本が欲望した聖女と魔女

【内容】
彼女たちはいかにして「スター」となったのか。なぜ彼女たちでなければならなかったのか。原節子と京マチ子を中心に、スクリーン内で構築されたイメージ、ファン雑誌などの媒体によって作られたイメージの両面から、占領期/ポスト占領期のスター女優像の変遷をつぶさに検証し、同時代日本社会の無意識の欲望を見はるかす、新鋭のデビュー作!


本書が描こうとしているのは、スター女優が「国民的スター」として存在することができた最初で最後の時期――映画と戦争が協働しながら理想の帝国を築こうとし、一つの国家が映画に描かれた民主主義を目指した時代の「国民的スター女優」である。日本映画を支えてきた(…)スター女優たちの存在は常に国家の記号(ナショナル・シニフィアン)だった。だが、社会の集合的欲望が作り出すさまざまなスター女優のなかで、なぜ彼女たちでなければならなかったのか。この問いを突き詰めれば、現代社会を生きる私たちの意識とも直結する戦後の日米関係や日本人の美意識の系譜など、日本人の〈戦後〉を異なる視点から解明してくれる。すなわち、彼女たちの身体イメージから、戦後日本のナショナル・アイデンティティが透けて見えてくるのである。集合的欲望としてスクリーンに投影されるスターこそ、潜在的な意識を顕在化させる文化装置――あるいは抽象的な欲望を具現化する媒体(メディウム)なのである。(本書より)

【内容目次】
序章 映画スターと日本の〈戦後〉
1 映像体験の彼方
2 不純な「スター女優」
3 映画スターの誕生

第一章 スター女優の時代――戦後日本の映画スターダム
1 戦後の日本映画――占領政策/大衆娯楽
2 戦後の映画観客と国民的映画
3 女性の身体へのまなざし
4 ファン雑誌というメディア
5 スター女優の変遷

第二章 躍動する身体――原節子の反−規範的な身振り
1 国家の記号(ナショナル・シニフィアン)としての原節子
2 『わが青春に悔なし』における受容
3 黒澤明の映像表現
4 若者観客と誇張された〈青春〉
5 原節子の烈しさとエロス
6 戦中映画における原節子の「モダニズム」
7 潜在化するモダニズム的感性
8 メディア・テクストとしての原節子

第三章 接触する身体――京マチ子の〈情動的身体〉
1 肉体派女優としての京マチ子
2 初期映画におけるプロモーション
3 戦後のヴァンプ女優――「陽性」のエロティシズム
4 循環する肉体――京マチ子の「脚」の表象
5 暴力的な肉体の強度
6 メディア・テクストとしての京マチ子
7 京マチ子の両義的な身体イメージ
8 敗戦のヒロイン――接触/切断

第四章 敗戦のスター女優――原節子の〈離接的身体〉
1 映画スターを解剖する
2 占領期におけるスクリーンの原節子――一九四六−一九四九
3 戦後の新しい女性イメージ――「理知性」と「意志」
4 原節子のスターペルソナ――「孤立」するパフォーマンス
5 「敗者の身体」――パンパンと「接吻映画」
6 〈抵抗〉する潔癖な身体
7 アメリカ映画とイングリッド・バーグマン
8 敗戦のヒロイン――離接性/超越性

第五章 ポスト占領期における古典美――京マチ子の「静の演技」
1 国際派女優の誕生――『羅生門』の衝撃
2 『地獄門』の快挙――製作と受容
3 「国際派グランプリ女優」のパフォーマンス
4 日本の理想と西洋の欲望――『長崎の歌は忘れじ』と『八月十五夜の茶屋』
5 京マチ子の言説変容――重厚感と格調

第六章 ポスト占領期における〈屈服〉――原節子の〈超越的身体〉
1 喪われた伝統美――『晩春』の原節子
2 変遷する指導者――『白痴』と『白雪先生と子供たち』
3 『麦秋』における〈集合的記憶〉
4 「戦争未亡人映画」としての『東京物語』
5 『めし』における共犯的イデオロギー

終章 聖女と魔女――原節子と京マチ子
1 「永遠の処女」と「肉感的な魔女」
2 〈理想化の時代〉の終焉
3 〈日常性の時代〉の原節子と京マチ子


あとがき


【著者略歴】
北村匡平(きたむら・きょうへい)
1982年山口県生まれ。現在、東京大学大学院学際情報学府博士課程在籍・日本学術振興会特別研究員・立教大学兼任講師・都留文科大学非常勤講師。専門は映画学・歴史社会学・メディア文化論。主な論文に「映画スターへの価値転換──1950年代のスクリーンにおける観客の欲望モードの文化的変遷」(『社会学評論』270号)、「敗戦のスター女優──占領期における原節子のスターペルソナ」(『映像学』96号)、「スクリーンに投影される〈青春〉──黒澤明『わが青春に悔なし』のオーディエンス」(『マス・コミュニケーション研究』90号)、「重層化する身体への眼差し──ヴァンプ女優としての京マチ子の分析」(『マス・コミュニケーション研究』88号)、「映像化される『雁』の世界──戦後日本映画における女性表象の生成過程をめぐって」(『表象11』)。批評に「スクリーンの〈湿度〉と原節子の眼差し──『わが青春に悔なし』から『熱風』へ」(『ユリイカ』2016年2月号)、「絶望の深淵で輝きを見せるとき──『凶悪』、あるいは『白夜行』における演技について」(『ユリイカ』2017年8月臨時増刊号)など。