強姦の歴史
ジョルジュ・ヴィガレロ著 藤田真利子訳
本体 3,200円
46判上製 383p
ISBN 4-87893-322-4
発行 1999.08
【内容】
16〜20世紀初の性的暴力の歴史。裁判記録、日記、新聞、医学文献…。厖大な史科・実例をもとに、性的暴力の実際と、身体・視線・道徳・主体の問題が複雑に絡み合う社会意識の歴史的変遷をたどる。
【内容目次】
序文
第T部 旧体制―――暴力と涜神
はじめに
1 強姦と他の暴力とに比較
見世物のとしての刑と無力なる法
強姦の条文上の刑罰とその実態
身分による免罪
示談―――金による解決
強姦より重罪だった盗み
2 被害者も堕落したという観念
罪悪感のない加害者たちの意識
わずかしかなかった告発
恥辱に包まれた被害者
動物も殺された”獣姦”
被害者も断罪された”ソドミー”
娘も処罰された”近親相姦”
3 女性の主体の不在
唯一つの手懸かりだった”叫び声”
男一人ではできない、という固定観念
強姦は女性の所有者に対する犯罪
「誘拐による拉致」と「暴力による拉致」
もっとも多い子供の強姦
まとめ
第U部 18世紀―――法の変化と無力さ
はじめに
1 強姦に対する世論の変化
暴力観の変化と刑罰の見直し
田舎の「残忍なる強姦魔」たち
貴族たちの「人騒がせな快楽」
サド「アルカイユ事件」の波紋
ビュフォンの「暴力的性衝動」への注目
2 <子どもの強姦>という概念の誕生
子どもの強姦裁判の増加
処女膜の鑑定
子どもの強姦裁判の実際
「ふしだらな子ども」という疑い
3 フランス革命による法の変革と強姦
「拉致」から「強姦」へ
無視された”強制的合意”
道徳的罪から社会的罪へ
条文化された広義の性的暴力
実際の裁判における変化
まとめ
第V部 19世紀―――近代法の成立と犯罪の序列化
はじめに
1 新たなる犯罪観への模索
時代遅れの犯罪とみなされた強姦
暴力犯罪と非暴力犯罪の逆転
好奇心をそそる物語としての犯罪
新たなる犯罪の序列化
2 法に定義された性的暴力
「強制猥褻」の登場
罪となった「強姦未遂」
子どもへの性的暴力の罪名
精神病理と法律
新たなる法的項目「風紀を害する行為」
3 「精神的暴力」という概念の誕生
肉体的ではない「暴力の一種」
刑法見直しと「見えない暴力」の定義
裁判ではじめて認知された「誘惑」
新たなる被害者への”疑い”
4 法の変化とその適用の実際
強姦裁判の増加と暴力犯罪の減少
成人女性の強姦―――法と慣習の大きな隔たり
子どもへの性的暴力―――都市での告発の増加
「都市の病理」―――場末の「野蛮人」というイメージ
世論を騒がせた「教養ある男」の性的犯罪
まとめ
第W部 19世紀末―――「強姦者」の発明
はじめに
1 子どもへの「強姦殺人」
大人の代用から、性的倒錯の対象へ
多発する近親相姦
発見された「むごたらしい死体」
折檻―――肉体的虐待
2 「強姦者」の研究
頭蓋骨における特徴の研究
身体全体に広がった特徴探し
「性的倒錯」の発明とその分類
3 「強姦者」は我々の外ではなく内側にいる
強姦者と自分の類似性
肉体的快楽の肯定
強姦者のイメージ―――貧乏人・浮浪者・外国人
最初の「連続殺人犯」
精神科医と裁判官の対立
4 精神医学の揺籃期
催眠術による強姦
「心の傷」―――精神的被害の発見
社会による監視と啓蒙
まとめ
19世紀末の性的暴力の概念と現代の概念の比較
第X部 20世紀―――風俗論争・強姦と今日の社会
はじめに
1 ”強姦者”の裁判から”強姦”の裁判へ
1978年の象徴的裁判
強姦の法的定義論争
風俗の抵抗―――その後の裁判の実際
2 揺れ動く男性社会
刑法改正―――「風紀紊乱」から「性的侵害」へ
セクシャル・ハラスメント
新しい暴力観
さまざまな分野で告発されはじめた性的暴力
3 子どもへの性的虐待
急増する犯罪件数
取り返しのつかない”心の傷”
現代社会の「小さな犠牲者」
予防と治療
まとめ
おわりに
謝辞
訳者あとがき…藤田真利子
【著者紹介】
ジョルジュ・ヴィガレロ1941年生まれ。現在、パリ第X大学の教授(歴史学)。社会通念が歴史的にいかに形成されてきたか、具体的に身体を通して明らかにしている。既訳書に『清潔になる<私>―――身体管理の文化誌』(見市雅俊ほか訳。1994年、同文舘刊)。他に『教育権の歴史』(1978年)、『スポーツ文化の歴史』(1985年)、『健康と不健康』(1993年)ほか。
【訳者紹介】
藤田真利子1951年、福島県生まれ。翻訳家。主な訳書に、『死刑産業』(スティーブン・トロンブレイ、作品社)、『死刑執行』(ロベール・バダンテール、新潮社)、『野生の心、野性への旅』(デイヴット・クォメン、河出書房新社)ほか。